ジョーンズ計算法によるセナルモン法の説明

複屈折媒質(リターダ)に光が入射すると,直交する偏光成分間に位相差が生じる.この位相差のことをリタデーションといい,実験的に測定する手法としてセナルモン法 (Senarmont method) がある.意外とセナルモン法について書かれた書籍が少ないので,備忘録を兼ねてジョーンズ計算法 (Jones calculus) によりセナルモン法を説明してみる.

セナルモン法の手順

セナルモン法の手順は以下の通りである.割と面倒.

  1. レーザーの光軸上に偏光子を置く
  2. 光が透過しないように偏光子の回転角を調整する(偏光面と透過軸を直交させる)
  3. 偏光子の手前に {\lambda/4} 板を置き,光が透過しないように回転角を調整して(高速軸を偏光面と一致させ)一旦取り出す
  4. リターダを偏光板の手前に置き,光が透過しないように回転角を調整する(高速軸を偏光面と一致させる)
  5. リターダを {45^{\circ}} だけ回転させる
  6. リターダと偏光子の間に一旦取り出した {\lambda/4} 板を再び入れる
  7. 光が透過しないように偏光子の回転角を調整する.その回転角の2倍がリタデーションである

ジョーンズ行列による偏光素子の表記

偏光が絡む問題を数学的に扱う方法としてはジョーンズ計算法ミュラー計算法 (Mueller calculus) があるが,完全偏光だけを扱うのであればジョーンズ計算法が簡単でよい.

リターダのジョーンズ行列

リターダの高速軸と低速軸をそれぞれ {x, y} 軸として,リタデーション {\phi} を生じるリターダのジョーンズ行列 {\mathbf{J}(\phi)} は次の式で表せる.


  \begin{equation}
    \mathbf{J}(\phi) =
    \begin{bmatrix}
      \mathrm{e}^{\mathrm{i}\frac{\phi}{2}} & 0 \\
      0 & \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\frac{\phi}{2}}
    \end{bmatrix}
  \end{equation}

高速軸が {x} 軸から {\theta} 傾いたリターダのジョーンズ行列 {\mathbf{J}(\phi, \theta)} は,2次元の回転行列{\mathbf{R}(\theta)} として {\mathbf{J}(\phi, \theta) = \mathbf{R}(-\theta)\mathbf{J}(\phi)\mathbf{R}(\theta)} で表せるので,


  \begin{equation}
    \mathbf{J}(\phi, \theta) = 
    \begin{bmatrix}
      \cos\dfrac{\phi}{2} + \mathrm{i}\sin\dfrac{\phi}{2}\cos 2\theta & \mathrm{i}\sin\dfrac{\phi}{2}\sin 2\theta \\
      \mathrm{i}\sin\dfrac{\phi}{2}\sin 2\theta & \cos\dfrac{\phi}{2} - \mathrm{i}\sin\dfrac{\phi}{2}\cos 2\theta
    \end{bmatrix}
  \end{equation}

となる.

{\lambda/4}長板と偏光子のジョーンズ行列

セナルモン法で用いる {\lambda/4} 板と偏光子のジョーンズ行列を以下に示しておく.


  \begin{align}
    \mathbf{J}_{\mathrm{QWP}}(\theta) = \mathbf{J}\left(\dfrac{\pi}{2}, \theta\right) &= 
    \begin{bmatrix}
      \dfrac{\sqrt{2}}{2} + \mathrm{i}\dfrac{\sqrt{2}}{2}\cos 2\theta & \mathrm{i}\dfrac{\sqrt{2}}{2}\sin 2\theta \\
      \mathrm{i}\dfrac{\sqrt{2}}{2}\sin 2\theta & \dfrac{\sqrt{2}}{2} - \mathrm{i}\dfrac{\sqrt{2}}{2}\cos 2\theta
    \end{bmatrix}
    \\
    \mathbf{J}_{\mathrm{POL}}(\theta) &=
    \begin{bmatrix}
      \cos^{2}\theta & \sin\theta\cos\theta \\
      \sin\theta\cos\theta & \sin^{2}\theta
    \end{bmatrix}
  \end{align}

偏光子の {\theta} は透過軸の {x} 軸からの傾きである.

ジョーンズ計算法によるセナルモン法の説明

入射光は {[1~0]^{T}} 偏光であるとする.上に書いたセナルモン法の手順は結局のところ,{[1~0]^{T}} 偏光の光をリターダ {\mathbf{J}(\phi, 45^{\circ})}{\lambda/4}{\mathbf{J}_{\mathrm{QWP}}(0^{\circ})},偏光子 {\mathbf{J}_{\mathrm{POL}}(\theta+90^{\circ})} の順に入射させることに相当するので,透過光 {\mathbf{u}} はジョーンズ計算法により,


  \begin{align}
    \mathbf{u}&=\mathbf{J}_{\mathrm{POL}}(\theta+90^{\circ})\mathbf{J}_{\mathrm{QWP}}(0^{\circ})\mathbf{J}(\phi, 45^{\circ})\begin{bmatrix}1 \\ 0\end{bmatrix}\\
    &=
    \begin{bmatrix}
      \sin^{2}\theta & -\sin\theta\cos\theta \\
      -\sin\theta\cos\theta & \cos^{2}\theta
    \end{bmatrix}
    \begin{bmatrix}
      \mathrm{e}^{\mathrm{i}\frac{\pi}{4}} & 0\\
      0 & \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\frac{\pi}{4}}
    \end{bmatrix}
    \begin{bmatrix}
      \cos\dfrac{\phi}{2} & \mathrm{i}\sin\dfrac{\phi}{2} \\
      \mathrm{i}\sin\dfrac{\phi}{2} & \cos\dfrac{\phi}{2}
    \end{bmatrix}
    \begin{bmatrix}1 \\ 0\end{bmatrix}\\
    &=
    \begin{bmatrix}
      \mathrm{e}^{\mathrm{i}\frac{\pi}{4}}\sin\theta\left(\cos\dfrac{\phi}{2}\sin\theta-\sin\dfrac{\phi}{2}\cos\theta\right) \\
      \mathrm{e}^{\mathrm{i}\frac{\pi}{4}}\cos\theta\left(\sin\dfrac{\phi}{2}\cos\theta-\cos\dfrac{\phi}{2}\sin\theta\right)
    \end{bmatrix}\\
    &=
    \begin{bmatrix}
      \mathrm{e}^{\mathrm{i}\frac{\pi}{4}}\sin\theta\sin\left(\theta-\dfrac{\phi}{2}\right) \\
      -\mathrm{e}^{\mathrm{i}\frac{\pi}{4}}\cos\theta\sin\left(\theta-\dfrac{\phi}{2}\right)
    \end{bmatrix}
  \end{align}

と表され,光強度は


  \begin{align}
    |\mathbf{u}|^{2}=\sin^{2}\left(\theta-\dfrac{\phi}{2}\right)
  \end{align}

となる.上の手順 7. は {\sin^{2}(\theta-\phi/2)=0} となる {\theta} を見つけることに他ならない.これは当然 {\theta=\phi/2} なので,偏光子の回転角 {\theta} の2倍がリタデーション {\phi} となる.