シングルピクセルイメージング

イメージングというと普通は CCD や CMOS などのアレイセンサを使うが,フォトダイオードのように空間分化能を持たない点型検出器を使ったイメージング手法を圧縮イメージングとかシングルピクセルイメージング (SPI) という.この方法の何がうれしいかというと,高感度なので SNR が低くても解像可能らしい.他にも点型検出器を使うので普通のイメージセンサが感度を持たないテラヘルツ波などでイメージングできる,結像光学系が必要ない,といった利点もある.シングルピクセルイメージングの基本的なアイデアは空間的に変調された照明光を使う点にある.

問題の定式化

照明光の空間パターンを1次元に並べたベクトルを {\mathbf{a}_{i}},イメージング対象物の透過率/反射率の空間分布を1次元に並べたベクトルを {\mathbf{x}},透過光/反射光の強度を {b_{i}} とすると,


  \begin{equation}
    \langle\mathbf{a}_{i}, \mathbf{x}\rangle = \mathbf{a}_{i}^{T}\mathbf{x} = b_{i}
  \end{equation}

となるのはいいだろう.あるいは連続系で表した方が分かりやすいかもしれない.


  \begin{equation}
    \iint a_{i}(\mathbf{r})x(\mathbf{r})\mathrm{d}^{2}r =b_{i}
  \end{equation}

添字の {i=1, 2, \dots} は測定回を表す.空間パターンの生成には空間光変調器 (SLM) やデジタルミラーデバイス (DMD) などが使われるようである.{\mathbf{a}_{i}^{T}} を列方向に並べた行列を {\mathbf{A}}{b_{i}} を並べたベクトルを \mathbf{b} とすると,まとめて


  \begin{equation}
    \mathbf{A}\mathbf{x} = \mathbf{b}
  \end{equation}

と書ける.何のことはない,線形方程式系である.ただしこの線形方程式系は普通は劣決定系である.というのも,対象物の解像度を {N^{2}},測定回数を {M} とすると,{\mathbf{A}}{M}N^{2} 列となるが,以下に説明するように {N^{2}>M} でもイメージング可能なのである.それに(優)決定系にしようと思えば,解像度を少し高くしただけで多数の測定が必要になることはすぐ分かる.

解析的アプローチ

劣決定系の線形方程式系の解法としてすぐ思い浮かぶのは,正規方程式から {\|\mathbf{A} \mathbf{x}-\mathbf{b}\|_{2}} を最小化する {\mathbf{x}} 求めるという方法である.この場合,普通 {\mathbf{A}^{T}\mathbf{A}}正則行列ではないので,最急降下法共役勾配法等の反復法が使われる.反復法で最小二乗解を求める方法はそこそこ上手くいくが,測定結果にノイズが乗っている場合いわゆる「過剰適合」を生じる.そこでもう少し凝った方法として正則化を使う手がある.スパースモデリングに基づく方法だと,{\mathbf{x}} がある種の基底変換でスパース(ほとんどがゼロ成分)になるという性質を利用する.基底変換の行列を {\mathbf{D}},変換後のベクトル(基底に関する成分)を {\mathbf{c}} とすると,{\mathbf{D}\mathbf{x}=\mathbf{c}} となるが,{\mathbf{c}}{\ell_{1}}-norm を最小化してやるのである(本当は {\ell_{0}}-norm を最小化すべきだが,この場合は組合せ最適化の問題となってしまう.なお,{\ell_{0}}-norm は通常の意味でのノルムではない).問題としては次の様に定式化できる.


  \begin{equation}
    \mathrm{min}~\|\mathbf{c}\|_{1}\quad\mathrm{s. t.}\quad\mathbf{A}\mathbf{x}=\mathbf{b},~\mathbf{D}\mathbf{x}=\mathbf{c}
  \end{equation}

この手の問題は Alternating Direction Method of Multipliers (ADMM) で割と効率的に解ける(「割と」と書いたのは逆行列を求める必要があるため).ADMM では次の拡張ラグランジュ関数の最小化問題を解く.


  \begin{equation}
    \mathrm{min}~L=\|\mathbf{c}\|_{1}+\mathbf{h}^{T}_{1}(\mathbf{D}\mathbf{x}-\mathbf{c})+\frac{\mu_{1}}{2}\|\mathbf{D}\mathbf{x}-\mathbf{c}\|_{2}+\mathbf{h}^{T}_{2}(\mathbf{A}\mathbf{x}-\mathbf{b})+\frac{\mu_{2}}{2}\|\mathbf{A}\mathbf{x}-\mathbf{b}\|_{2}
  \end{equation}

ここで {\mathbf{h}}ラグランジュ乗数,{\mu} は調整パラメータである.{\mathbf{D}} には {\mathbf{x}} の勾配を取る行列を使うとよい結果が得られるようである(この場合,{\|\mathbf{c}\|_{1}} が Total Variation となる).

統計光学的アプローチ

上記とは違ったアプローチとして {\mathbf{A}}\mathbf{b} の相関を利用する方法がある.詳しい原理はこちらを見てもらうとして,手順としては次の計算を行うだけである.


  \begin{equation}
    \mathbf{g} = \frac{1}{M}\mathbf{A}^{T}(\mathbf{b}-\langle\mathbf{b}\rangle)
  \end{equation}

ここで {\langle\rangle} はアンサンブル平均である.この計算は {\mathbf{a}_{i}} のゆらぎ {\Delta\mathbf{a}_{i}=\mathbf{a}_{i}-\langle\mathbf{a}_{i}\rangle}と,{b_{i}} のゆらぎ {\Delta b_{i}=b_{i}-\langle b_{i}\rangle}2次コヒーレンス {\langle\Delta\mathbf{a}_{i}\Delta b_{i}\rangle} を求めることに相当する.この方法は特にゴーストイメージングと呼ばれているようである.反復計算を必要としないのはよいが,{M\to\infty} での誤差の漸近挙動があまりよろしくない.ただしノイズには強い.

直交基底を使う方法

これまで係数行列(照明光の空間パターン){\mathbf{A}} について特に言及しなかったが,こちらを工夫する手もある.何も考えずランダムなパターンを用いるという手もあるが,直交基底を用いると空間周波数ごとに測定できて効率的である.実際,アダマール行列に基づいた空間パターンを使うことでゴーストイメージングより鮮明度の高い像が得られるようである.あるいは事後的に {\mathbf{A}} を直交化するという方法も考えられる.グラム・シュミットの方法で {\mathbf{A}} を正規直交化すると({\mathbf{b}} にも同じ操作を施す),かなりよい像が得られるようである.ただしこの方法ではノイズに弱くなる模様.

回折の影響

変調器で生成された照明光は回折するので,必要に応じてフレネル回折やら角スペクトル法で回折パターンを求める必要がある.ただしリレー光学系を組み込めばこの処理は必要ない.

参考文系

あとで書く.